七つの大罪

扉を開けると七人の女が正座で座りこちらを見ていた。いや正確にはそれぞれ動物のゴムマスクをしていたので私を見ていたのかは定かではないが。マスクはライオン、オオカミ、犬、熊、狐、豚、山羊であった。
「良くぞいらっしゃいました。わたくしは、当やかたの主人。リリスと申します。招待状をお持ちの方に、細やかながらでは御座いますが、女をご用意させていただきました。どうぞ1人お選びくださいませ」
招待状?あぁ、あのママさんが言っていた事はこの事だったのか。私は脇に抱えていた本をリリスなる女主人に見せた。
「あっ、見せて頂かなくて結構ですよ。お持ちになって居なければ、ここには入れませんので」
これ見よがしに黄門様の印籠のように本を突き出したまま私はちょっと恥ずかしくなってしまった。別に見せなくてもよかったのか。私は恥ずかしさを誤魔化すように頷いた。
「う、うむ」
しかし、その本は虐められていたカメを救った若者の話が突然宗教みたいな話になって、アレ?おかしいなと本から視線を上げたら目の前に黒い扉。中に入ったらこんな事態に。これからいったいどうなるのかと興味がわいてきた私は慎重に女を吟味した。そう、やはりこの状況は怖い。これまでに聞いた話、経験、ありとあらゆる知識をフル回転させ熟慮した。
マスクの女たちはモデル並みのプローポーション、ツルペタロリータ、巨乳、アスリート体型、小柄、マッスル、巨デブ。様々で私は本当に悩んだ。悩んだ挙句、元来図々しい性格の私は
「あ、あの。マスク取って頂けないでしょうか?」
無理だとは思っていたが、一応言うだけは言わないと後悔しそうなので言ってみた。すると意外な事に、リリスが指をパチンと鳴らすと女たちは各々マスクを取った。そしてその女たちは、ここまで理想的かというほど体型に見合った顔立ちで、超絶美人からドブスまで揃っていたのだ。私は慎重に考えた結果一番体の大きい豚マスクを脱いだおデブちゃんを選択した。
豚マスクのおデブちゃんに案内されて私は部屋に通された。その部屋は二十畳くらいで床は大理石。豪華なベッドや煌びやかな宝飾品、プールのようなバスルーム、息を飲むような豪華さだった。
「シャワー。お浴びになられますか?」
「ああ、そうだな」
おデブちゃんは私の両手を広げさせ、服を脱がせてくれた。おデブちゃんは私をバスルームに案内すると背中を流してくれたのだが、その時に背中越しにすすり泣く声を聴き、驚いて振り返った。
「ど、どうした?」
「あ、ごめんなさい。わ、私、初めて選ばれたもので、なんだか嬉しすぎて感情が高まってしまって」
「そうなんだ、良かったな」
そう言いながら、私はおデブちゃんの頬に手を添え親指で涙をぬぐってやった。それで気が付いたが彼女は左目の下に涙ボクロがあって、ちょっとカワイイと思った。
「ありがとうございます。90年待ちました。やっと選んで頂けたのです」
「えっ!?90年??えっと、そもそも此処はどういう所なんだい?あっそれと君名前は?」
「ベルです。名前はベル。そして此処はリリス様の館でございます」
「ベルちゃんか。可愛い名前だね。で、何?90年って??で、何度も聞いて悪いけど此処はどういう所?」
「えっ?ご、ごめんなさい。わ、わたし混乱してしまって。90年と言いましたか?間違えです9年です」
なんだか慌てて誤魔化したのは見え見えではあったが、目の前のおデブちゃんが90歳を超えている様には見えないので気にしない事にした。
「言い間違いはいいとして、この館は何なの?」
「はい、特別な方だけがご招待される特別な館。全ての夢が叶う特別な場所です」
「全ての夢が叶う?そんな凄い場所にどうして私みたいな男が招待されたわけ?」
「さぁ、そこまでは存じ上げませんが、私には貴方様がとても特別な方のように思えます」
「え?そうかな?どんな所が特別?」
「ごめんなさい。語彙が乏しい私には具体的に表現できる事が出来ませんが、貴方様は輝いて見えるのです」
「そ、そうかぁ。まぁ追々色々解ってくるのかな?」
「はい、きっとご理解頂けると存じ上げます」
シャワーを出るとベルは私にマッサージを施術してくれたり、二人でフルーツを食べたり楽しく過ごした。そして彼女がベッドに横たわり、私もその気で彼女に覆い被さったが、どうにも上手く行かない。そう私は性癖に少し問題を抱えていたのである。
「ご、ごめんなさい。私、やっぱり醜いですよね。な、何かお手伝いできることがあるなら仰って頂ければ」
「そ、そ、そ、そんな事無いよ、き、き、君はび、美人さんだ。見紛う事ない美しい女性だと断言できるよ。わ、悪いのは私の方で、原因は私の性癖なんだ」
「性癖?ですか?わ、解りました。私、どんな事でも致します。選んで頂いたご恩に報いなくてはなりません」
「い、いや、ちょっと。それは……。ごめんね、図々しい事言うと叩かせてくれないかな?」
「はい、どうすれば良いですか?貴方様に抱いて頂かないと、私、リリス様に叱られてしまいますし」
「じゃ、じゃあここに腹ばいになって」
私はベッドの端に腰かけるとベルを膝の上に腹ばいで乗せた。
「こ、こうですか?重くは無いのですか?大丈夫でしょうか?」
やはり経験が無いのであろう、恐怖心を紛らわすためにベルは口数が多くなった。それに全身が震えているのが良く解る。
「さぁご遠慮なさらずにお願いいたします。私の事はお気になさらず。私も貴方様に抱いて頂けないならきっとこの館を追い出されてここから下界へ追放されてしまいます。さぁご遠慮なさらずに」
下界?少し気になったが、そんな事より今はベルの為にも奮い立たせねばならない。
「じゃ、じゃ行くよ」
バシーン!
「ひゃっ!」
ベルの体が強張った。
バシーン!
「うぐぐ」
ベルは悲鳴を上げないよう自分の腕を噛み声を殺していた。強張った体がさらに震え大理石の床に涙がポタポタ落ちている。私はベルの背中をポンポンと叩き、もういいよと体を引き起こした。
本当に怖かったのだろう。起き上がるとベルは私に抱きつきワンワン泣いた。私は腕の中のベルを抱きしめると本当に愛おしくなり話しかけた。
「がんばったなベル。もうがんばらなくていいよ。私が悪いんだ。さっき気になったけど、もし此処を追い出されるような事があったら私を訪ねてきなさい。ほら、名刺。これでも、こんな大きな会社の管理職だ。男やもめで可処分所得も充分さ、ははは。遠慮なく訪ねてくるんだよ」
ベルは泣き止まなかったが私は服に着替え部屋を出た。出口には女主人リリスが立っていて、私にはっきり聞こえるように舌打ちした。
「貴方は望んで招待状を受け取ったにも拘らず、ここのルールを破りましたね。今後は出入り禁止とさせていただきます。二度と招待状を望まないでください」
私は軽くウィンクして本を投げ捨て館を出て行った。

気が付くと私は公園のベンチに寝ていた。持っていたはずの本は何処にもなかった。夢か?だとしても私はあることに気付かされた。SMプレイの経験はわりとあった。でも、本当に嫌がる女性にそういった行為をした事は無かったのだ。嫌がり、泣き叫ぶ女性に無理やり。そういったプレイは憧れであったが、夢とはいえ実際に体験してみて解った。相手がM女で痛みに快楽を覚える女性でないと、自分もプレイにのめり込めない。SMプレイが何故SMプレイなのか良く解った。
プレイ。そこに大きな意味があったのだ。
翌日、私はなんだかすっきりと会社に出社し、バンバン業務をこなしていた。机の大量な書類に決裁印をバンバン押していると机の前に人影を感じた。
「課長、ブヒ……。」
顔を上げると目の前に背の高いスーパーモデルのような女性が立っていた。
「浦島課長、今度コーラス部に入部させて頂いた鈴木りんです。先輩に言われて今月の部費を頂きに……。お邪魔でした?」
端正な顔立ちに涙ボクロが印象的な女性は新入社員で私が所属するコーラス部に参加したらしい。
「あぁ部費ね、はい」
お金を受け取ると彼女はニコッと笑って
「今度、個人的に歌唱指導お願いします。課長の歌唱力は凄いって先輩に聞いてますので」
そう言って廊下へ出て行った。部署の連中は仕事の手が止まって彼女に釘付けなってしまっていた。
「ほら!仕事!仕事!」
私は彼女とどっかで会っているような気がしてならなかった。ニヤニヤしながら部下の佐多が私の机に来た。
「浦島課長、いいですね~あんな超絶美人がコーラス部に参加して。俺も参加しよっかな~」
「バカな事言ってるな、どこが美人なんだ、あんな鶏ガラみたいな女」
「あっ!そうでした、そうでした。課長デブ専で、太ってれば太っている程美しいって言ってましたっけ」
「当たり前だろ!そんな事!世の中の方がどうかしているんだ、美的感覚がおかしいんだよ!」