「もう!知らんわ!そこで反省しとき!」
「ちょ、まっ、まって、お、俺、裸だよ!」
ピシッ!ザッ!
私は全裸のままベランダに出され、サッシを閉められ、カーテンも閉められてしまった。
「お~い。開けてくれよぉ、ったくどんなプレイだよ~お~い。」
これ以上刺激しないように、努めてゆっくり呼びかけたが反応が無い。私の心は焦るばかり。
全裸のままベランダに出されてしまったのなんか当然初めて。恐ろしくて道路側に振返る事が出来ないが、このままでいい訳が無い。なので勇気を振り絞って振返り、状況を確認。道路には重機が停めてある。コベルコのSK120SR、0.45立米、12tクラスのユンボが、下の道路の反対車線にあるので片側通行規制がされいて、幸いにも通行人に目撃されることは無い。建物側の通行人からはこの高さなら見えないからだ。少し安堵したが、向かい側の建物の喫茶店の窓際に1組のカップルが座っているのに気が付いた。
まずい。まずいぞ。私は腰を下ろし身を隠そうと試みるも、全部隠れない。いっそ寝そべってしまおうとも考えたが、ベランダは鳩の糞だらけで、とてもここに身を委ねる気分ではない。焦る気持ち、滴る脂汗。私は力強い視線をカップルに送りこちらを振返らないよう念を送った。
そこで、ふと隣の様子を伺うと、仕切りの先に手すりに逆さ吊りされたバラの花束を発見した。ドライフラワー作りたいなら日陰干しだろと心で突っ込んだものの、これは天の恵み。私はカップルに念を送りつつ、ゆっくり手を伸ばしその花束を取り、下半身を隠すアイテムを手に入れた。トゲがチクッとした。少し笑ってしまった。
しかし、本当に洒落なならない状況。風俗店が多く入っているこのマンションで全裸でベランダに出されたのでは、色々と勘違いされてしまう。これは根気強く説得を試みるしか無い。
「お~い。伊織。開けてくれよ~入れてくれよ~俺が悪かったよ~」
私は部屋にいる伊織に呼びかけ続けた。しかし静寂に包まれた空間は静寂のままだった。
呼びかけを続けながらも、いつあのカップルがこちらに気が付くかという恐怖は相変わらず付きまとう。カップルは楽しそうにお喋りをし、本当に幸せそうだ。俺達にもああいう時期があったな。呼びかけながら4年前、伊織と知り合った当時を思い出していた。
知り合ったのは伊織が高校3年生の時。私は体育大学の学生で、母校の高校テニス部の臨時コーチ。伊織は関西のテニス部強豪校からの転入生で、その美しいフォームに一瞬で魅了され、目を掛けるようになった。
正直、私の学校のテニス部はお遊びに毛の生えたようなレベルであったが、伊織は別次元の実力で、練習後も居残りを志願し、毎日のように2人で練習に明け暮れた。
そんなある日、遅くなりすぎてしまったので、伊織を自転車の後ろに乗せ帰宅途中。ドーン!と大きな音がした。花火だ。町は花火大会で盛り上がっていた。
「うわっ!先生!花火や!花火!見にいこ!」
足をバタバタさせ伊織がはしゃぐので、自転車を停め、振り返ると花火に照らされた伊織の端正な顔に一瞬ドキッとしてしまった。
ドーン!
もう一発花火が上がる。伊織の瞳の中に何重もの光の花が咲いて、それはそれは美しく、しばらく見とれてしまった。
「先生!早くいこ!終わってしまうやん!はやく!はやく!」
伊織は小さな手で私を引っ張り、ショートヘアを左右に振りながら小走りに走った。
大会場は大賑わい、定番の「たぁ~まやぁ~」の掛け声と、花火の振動音は独特の高揚感をあおる。縁日で買ってあげたたこ焼きを頬張りながら「きれいやぁ~きれいやぁ~」とはしゃぐ伊織の笑顔が赤や黄色や青の光に照らされ、私は缶ビール片手にそれを眺めていた。すると酔ったせいか変なことを思いついてしまった。「たぁ~まやぁ~」と花火の爆音に紛れて、この、どうにも抑え切れない気持ちを叫んでしまおうと思ったのだ。
タイミングを計る。酔ってはいるが緊張するものだ。コーチと教え子。先生と呼ばれる立場を酔った勢いが忘れさせる。
シュルルル~~と花火が上がっていく!
さぁ。今だ。
「いおり~ぃ。だいすきだぁ~!!」
一瞬、この世の音がすべて消えたような気がした。
花火は不発玉だった。周りの観衆が響き渡る私の声に注目し、視線が一斉にこちらに向いた。伊織は制服。私はジャージ。誰から見ても不自然だ。ぼそぼそ、ヒソヒソと会話をする人も目に入った。奇異な目で私たちを見つめる観衆。ここは地元。昔、祭りの催し物の美少年コンテストでグランプリをとった事もある私は、自分では有名人だと思っているが気が付いた人がいただろうか?不安が襲ってきた。
「せ、せんせ、ちょ、恥ずかしいやんかぁ、逃げよ、逃げよ」
顔を真っ赤にした伊織が私の手を引っ張る。私は呆然としたまま伊織に引かれていった。
無言で暗い川沿いの道を歩く二人。私は何だかショック状態で右足と左足を交互に前に出す単純作業を繰り返すだけであった。鴨川の水の音さえ煩わしく感じ始めたころ伊織が突然足を止めた。
「あんな、嬉しかったで。先生の気持ち。うん。嬉しかったで」
伊織がそう言って、瞳から涙をこぼした時、私の唇は伊織の唇に重なっていた。
それから暫く、秘密の関係を続け、伊織の卒業と同時に2人でこの街に出てきたのであった。
ガラッ
サッシが突然開いた。
「もう、女子アナなんか、かわいい、言うたらあかんで」
「おっ、おう」
やっと部屋の中に入れてもらえた。その安堵感と出会ったころの思い出で、気が付くと伊織の唇に貪りつくように吸い付いていた。
「あかん、せんせ、今はあかん…」
伊織はか弱い抵抗を試みたが、私はそのまま抱え上げ、ベットに押し倒し伊織の背中に爪を立て首筋に舌を這わせ愛撫を続ける。伊織の肉体は瞬く間に熱を帯び、息を荒げた。私は愛撫しながら口を伊織の下半身まで移動させ、伊織のイチモツを咥えこむと、伊織は一気に果てた。
「もう、宮本先生…。ダイスキ。」
そう言いながら私に抱き着き、頬ずりする伊織の僅かに剃り残したヒゲがチクッとした。愛おしいと思った。